東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)217号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手段の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 前記審決の理由の要点によれは、審決は、本願発明の要旨を(イ)、(ロ)、(ハ)の三つの構成に分け、これに対応させて引用例に開示された事項を(ⅰ)、(ⅱ)、(ⅲ)の三つの構成に分けた上、「そこで、本願発明と引用例に開示された事項を比較すると、本願発明(イ)、(ロ)の構成は、引用例に開示された(ⅰ)、(ⅱ)の構成に対応し、(ハ)の構成は(ⅲ)に対応する」と認定し、(イ)と(ⅰ)の構成については、「(イ)と(ⅰ)の構成は同じであり」と認定し、(ハ)と(ⅲ)の構成については、「本願発明の(ハ)の構成と引用例に開示された(ⅲ)の構成を比べると、引用例に開示されたものは記録時における外部雑音の防止にかかるものであつて再生時のものでない」ことを相違点と認定し、右相違点について、引用例には、「少なくとも光学的記録再生においても除震対策をほどこすことが示されており、再生時にも必要に応じて除震手段を設ければよいことを示唆している」こと、「本願発明の(ハ)の構成は機械的レコードプレヤにおいて既に周知のもの」であること等の理由により、この点に発明があるとはいえない、とする趣旨の判断を示していることが明らかである。
しかしながら、前記審決の理由の要点によれば、審決は、本願発明の(ロ)の構成と引用例に開示された(ⅱ)の構成については、「(ロ)と(ⅱ)の構成で一体構造とする部分に多少の差はあるが大部分が一致している。すなわち、本願発明では、回転手段が他の手段と一体構造になつているのに対して引用例にはその点についての記載がない」と認定しており、その認定内容に照らし、本願発明では回転手段が他の手段と一体構造になつているのに対し、引用例にはその点についての記載がない点で両者は相違するが、その余の構成で一致すると認定したものと理解するほかない。そして、審決が、本願発明においては回転手段が他の手段と一体構造となつているのに対し引用例にはその点についての記載がないとの相違点についての容易推考性を判断しなかつたこと、及び本願発明の(ロ)の構成においては、相対移動手段も他の手段と一体構造となつているのに対し、引用例にはその点についての記載がないのに、これを相違点として摘示せず、かつこの相違点について容易推考性を判断しなかつたことは、当事者間に争いがない。
そうであれば、審決には、本願発明において回転手段が他の手段と一体構造となつているのに引用例にはその点についての記載がないことを相違点として認定しながら、右相違点について何らの判断も示さなかつた理由不備があり、かつ、審決は、本願発明の相対移動手段も他の手段と一体構造となつているのに対し引用例にはその点についての記載がないことにおいて両者が相違することを看過したものというべきである。
この点に関し、被告は、審決は理由についての記載を一部脱落したため論旨が不明瞭となつたものであることを認めながら、審決には、本願発明の認定、引用例の認定、周知技術の参照例、審決の結論が明示されており、被告の主張1記載のとおり脱落個所を補うことによつてこれらに変更を及ぼすものではない旨主張する。
しかしながら、特許庁が審判手続においてした審決の取消訴訟の訴訟物は審決の違法性であり、特許庁審判官が既にした審決についてそれが適法か違法かが審理の対象となるのであつて、審決に、審決認定の相違点について何らの判断も示さなかつた理由不備があり、かつ相違点を看過した誤りがあるのに、訴訟の段階に至つて理由不備を解消するような主張をし、また、看過した相違点についての容易推考を主張して審決が適法であることの根拠とすることは許されないから被告の前記主張は採用できない。
2 以上のとおりであつて、審決には、本願発明と引用例記載のものとの審決認定の相違点について判断を示さなかつた理由不備があり、かつ、本願発明と引用例記載のものとの相違点を看過した誤りがあり、その結果本願発明は引用例に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとしたものであるから、その誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであつて、審決はその余の取消事由について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。